ものがたりを解釈する

アニメ、漫画、小説、神話、あらゆるものが語りかけてくること。最も深遠な、でも誰にでも開かれている秘密に、解釈というメソッドで触れていく。

ハウルの動く城を解釈する5 黒い穴の秘密。

Howl's Moving Castle/ [Blu-ray]

 

ソフィもいわば魔女なんだと繰り返してきたけど、
いつからソフィは魔法を使えるようになったのか、きっかけがある。

 

あの空中散歩だ。
ハウルに寄り添われながら「足を出して、歩き続けて」
そのとおりにできたら「上手だ」と。
あれは魔法の手ほどきにもなっているんだろうな~。

ソフィが帽子屋であることも、魔女の下地になってる。それは後述する。


あと指輪はハウルカルシファーの方を指すほかにも、
「無事に行って帰ってこれますように」ていうまじないがかかってる。
扉の向こうの黒い空間のなかで、目的地に行ったところまでで壊れちゃうけど。帰り道にはヒンがいた、と。

 

黒い空間にアクセスする時は、十分に注意が必要で、
我流では危険が伴うってことも宮崎駿は描写している。

 

黒い空間に体ごとダイブするような接続をすることに、どういう危険が伴うのか・・・
色々考えられるけど、まあ魔王になるとか、荒地の魔女のようになるってサリマンは言ってたね。
堕落する、堕天使になるっていうか、菩薩の死、なんて言葉もある。

 

力のあるヒーラーや、スピリチュアルなマスターが陥りがちな罠だ。
具体的にいうなら、病気になる、酒色におぼれる、金を集める、人を支配する・・・ 、
目がどろっと濁って肌艶が悪くなり、太るか逆にガリガリになるとか・・・
うさんくさい新興宗教の親玉みたいになって多くの人の人生を狂わせるとか、死ぬとか。
死んだあとも、よろしくない存在になって彷徨うとか。
そんな感じかなぁ、あんまり考えたくないけど。

 


Q 妹のレティは帽子屋はしないのかな?

 

そりゃ~向いてないね。だって妹が働いてるのは喫茶店のお菓子売り場だよね。
お菓子売り場って女性客が多いところなのに、 妹の前には大勢の男性客が押し寄せて、声をかけてくるスタッフも男性ばかり。
妹は容姿が華やかで、性格も良くて、もう大人気のモッテモテ。
ソフィだけじゃなく、おおかたの女性が劣等感を抱くであろう要素がてんこもりだ。

 

一方、ソフィの帽子屋にあるのは女物の帽子ばかり。
この店で妹が商売しても、男が詰めかけて、女は来なくなるだろうねww

母ハニーもどう見ても妹と同じ属性だ。
だから余計にソフィは「この店を守れるのは自分だけ」とか思ってたんだろう。

 

 

さて、魔法の力は黒い空間から来る。

黒い空間を入ってすぐのところには人間の無意識・深層意識、ユングの言う集合的無意識なんかもある。

進んでいくと、流れ星のような存在のいる層がある、そして対価や代償のいる魔法、法則、きまりごとの層がある。

そして、黒い空間のもっとも深奥というか、最上層には 奇跡 創造 の領域がある。

 

黒い空間を進む道のりにはロードマップがあるってことを言いたいんだ。


これを作中だけから読み取るのは無理だと思う。
素養とか才能で解る人もいると思うけど、予備知識がいる。

 

そのロードマップは普通の生活では感じないけど、
人間存在が道を求めだすと、向こうからやってきたり、そこにあったことに気が付いたりする。

 

それは古い知恵や、神話のなかにある。

 

禅みたいな精神修養とか、密教、精神世界のメソッドは
ロードマップの通りに道を進んでいく練習方法だ。

 

自分もこの解釈を書くにあたって参考文献を使ってる。
シータヒーリング、ヴァイアナ・スタイバル著だ。
この本にも注意点はあるんだけど、ロードマップについての詳細さは素晴らしいと思う。

領域、層、コマンドというのもこの本の用語だ。便宜上自分もこの概念をしばらく使っていく。


ソフィは最初は無意識に奇跡を使っている。
これって実は多くの人間も普段から同じことをしている。

人間存在は奇跡や創造の領域から生まれてくるからね。(これマジ)

さいころは神様がいて、不思議に夢を叶えてくれた っていうのはそういう意味だ。

心がガラクタの山の状態でも、その領域との接続は弱まりはしても切れてしまったりはしない。
生きている、存在している、っていうエネルギーは常にその領域からやってきている。


母と和解した後、ソフィの姿は完全に元の年齢に戻っている。

実母なのか義母なのか、とにかくハニーはサリマンのパシリだったけど、
ソフィをまるで愛していないってわけじゃない、自分の方が大事なだけで。

 

まあでも「ごめんね、みんな私が悪いの。」って言って抱きしめてくれる。

そしてソフィも母を抱きしめた。

 

許すこと、それこそがあらゆる呪いを解放する感覚だ。

 

ここでソフィの心は「美しくない」とか諸々のガラクタの思考パターンを解放したんだ。
髪は白いままなんだけど、ここからソフィの心は完全性を取り戻した。

 

それは扉の向こうの黒い空間を自らの意志で進み、
最奥、最上層の領域の力を行使できる準備が整ったよ、っていうこと。

 

ソフィは母を許した時、
ハウルはガラクタの城が崩れ落ちて、身軽な感じに再構成された時、準備が整った。

ここまで入念に癒しの手順を描いたからこそ、本物の神秘を描くことができたんだと思う。

 

ソフィは、サリマンとは戦っちゃいけないってことが解っていた。
勝ち目もなかったけど、勝つとか負けるとかそういうレベルじゃ、ハウルの呪い(母性の支配)は解けないから。

だからソフィは扉の先の黒い空間へ歩いていく。
ここからの行いはカウンセリングなんてレベルじゃない、最も高度なヒーリングだ。
危ないから、良い子は絶対マネしちゃいけない。

 

黒い空間を進んでいくと、ハウルが少年時代を過ごした水車小屋に着く。
これはハウルの原風景、心の核になっている心象風景だ。

 

「ソフィなら自由に使っていいよ」という許可をハウルが事前に出していたから、
ソフィは他人の心の中に踏み入ることができた。

許可なしに他人の心に踏み入る(物理)とか、しちゃいけないのは感覚的にわかるよね。

水車小屋のドアを開けると、流れ星がたくさん降っている。
一瞬サリマンの魔法のシーンが差し挟まれるのは、 サリマンもハウルもこの星を捕まえて契約して行使する、という同じ魔法を使っているという意味だ。

 

流れ星の存在が、水面を走った後、沈んでいくシーンがあるけど、
あれは流れ星の存在には肉体がなく、この三次元の現実の層では少しの間しか力を行使できず、還っていく存在である。ということだ。

 

流れ星の存在のいる層には色んな存在がいる。
悪霊、妖怪の類から、八百万の神々、精霊、天使、神霊・・・
ま、見たことはないけど名前は知ってる力ある存在のおおかたはこのへんだ。

 

千と千尋の舞台もこのへんに設定されている。異界とでも言うのかな。


あそこでは逆に三次元の物質的存在である千尋の姿が透けていってたのはそういうこと。存在のルールが違うところなんだ。

ハクが千尋に「何か食べないと消えてしまう」と食べさせると、千尋は透けなくなるよね。
あれはヨモツヘグイっていう行為だ。普遍的な伝承で、類型は世界中にある。

 

逆にハウルでは流れ星存在に、心臓という自分の血肉、物質の依り代を与えるんだ。すると流れ星はカルシファーになる。
それは受肉、召喚、そう呼ばれる。これも普遍的なイメージだ。

 


さて、いよいよ「未来で待ってて」だ。


ここがこの物語の肝心要だ。この世界で最も素晴らしい秘密が暗喩されている。

ここまでの描写ができるクリエイターは本当に一握の天才だと思う。

でも、それは本当は誰にでも開かれているものなんだ。

魔法の勉強をしたこともない、しがない下町の帽子屋の娘にでも。

 

自分にも、誰にでも、すべての人、あらゆる存在にもだ。

 

ソフィは水車小屋を出て、 ハウルが心臓=心の一部を代償に星と契約しカルシファーになったのを見た。

ここまではハウルの記憶というか、過去の再現だ。

そして指輪が壊れて、ソフィの足元に黒い穴が開く、
ソフィはそこに落ちるっていうか、体がその黒い穴にある状態で、ハウルカルシファーを見るよね。

 

この時の足元の黒い穴が、秘密だ。

 

あの黒い穴には、色んな呼び方がある、色んな呼び方は同じものを指しているんだけど、
そのどれもが完璧ではない、なぜなら、それは言葉で表せるようなものじゃないからだ。

 

0無限
アルケー、原初の神話的混沌、混元、カオス、乳海、(くう)、
大日如来ブラフマン天御中主神
、ひ、プラーナ、
あらゆるものの創造の源のエネルギー、全知全能ゆえに零知零能。

そういう言葉が伝えようとしているものだ。

 

そこへ至り、はじめること。それが 奇跡 創造 だ。

 

それには対価も代償もない。
善も悪も、因果も時間も、あらゆる法則も、
何もかもすべてを超越しているし、

 

もっと言うと、
この世界のすべてはそう呼ばれる何かの一瞬のふるまいに過ぎない。
その何かに至ってから観れば、すべては儚い幻、夢に過ぎない。

 

ソフィはそういうものを暗喩している黒い穴に身をおきながら、ハウルカルシファーを見る、名前を呼ぶ。
あの状態だと、あらゆるすべてが可能ということになるので、ピントを合わせること、ターゲッティングが重要だ。

 

そして「私はソフィ、未来で待ってて、必ず行くから」と言う。これはコマンド、創造、世界との約束、奇跡、真に力ある言葉だ。

 

あの黒い穴は、「過去から現在へと時は流れ、それは不可逆である」みたいな時間の法則をはるかに越えたものだ。だから時間を超えた操作もできる。

 

代償のいる魔法のレベルだと、過去改変は相当に厳しい
時間の法則のようなきまりごと、法、というのは霊的存在より上位の層だからだ。

 

ソフィが花畑で「不思議、ここに来たことがある気がするの」とか、
ハウルが最初に「やあ、捜したよ」とソフィに声をかけること、
時間を超えた縁の描写はこの「未来で待ってて」によるものだ。

 

実は、ハウルの呪い(母性の支配)はガラクタの城が崩壊した時点で多分解けている。支配を受け入れる思考パターンはガラクタだからだ。それは解決済み。

で、残る問題は、ハウルカルシファーを契約から解き放って、それぞれに完全性を取り戻すこと。

だが、ハウルは魔法の使い過ぎ、代償の払い過ぎで人の心を失い怪物になってしまう寸前・・・というか、 もう手遅れだったと言っていい。魔王、怪物に変じてしまう。

だから「待ってて」なわけだ。

魔王、怪物になるのはちょっと待て、と。行ってなんとかするから、と。

このソフィのコマンドによって、ハウルはもはや人の形もなくして力も尽きているにも関わらず、ギリギリ怪物にはならないで、ドアの外で「待ってる」。

 

で、カルシファーも水をかけられて、おまけに荒れ地の魔女に握りしめられているのに、 ソフィーを「待ってた」。
水をかけられても死ななかったのは、ソフィが「待ってて」とコマンドしたからだ。

 

あの黒い穴に至って使うコマンドには、
時間や因果さえ越えて、もうどうしようもないはずのことを、どうにか留めおいてしまう、そういう力さえある。

 

ハウルカルシファーも、致命傷が入ってるのに死なないで、とどまっているんだ。

 

首を切られているのに、なぜか死んでないってくらい、ありえないことなんだ、と言うと少しは伝わるかな?

 

魔法以上のなにかでないと、これはできない。だから奇跡と呼ぶ、便宜上ね。

 


そしてああいう何かに意識的にアクセスしたあとは、帰り道も重要だ。
もし迷えば、しぬよりヤバイことになりかねない。

 

「待ってて」のあと、黒い穴に吸い込まれたソフィは、空の上、雲より高いところから落ちてくる。

 

あそこは一瞬だけど重要な描写だ。自分はその場面でこういうことに気が付いた。
あれは、最も高い高~い最上層に行ってきたんだよっていう表現なんだ。

 

ソフィが降りていった心の奥底、最深層と、
この有限の世界の最上層は、同じところへ至るということでもある。

 

そして指輪は壊れてしまったけど、ヒンが帰り道を知っている。
ヒンはサリマンの足だと教えてくれた人がいたけど、
サリマンも、雲より下まで降りてきた、この辺までは良く知っているところなんだ。

 

雲より上から落ちてきて、金色の光に照らされた空から、
黒い空間に降り立って、黒と赤の空間を降りてくる。

 

これは、シータヒーリングの本で読んだロードマップどおりの道程だ。

雲は灰色の塊、法、第6の層をあらわす。
金色の光、空は、神聖存在のいる異界、第5の層をあらわす。
黒い空間は、精神や意識、霊的存在の異界、第4層、
黒と赤の空間は、この物質の世界、人間界、現世、第3層だ。

そして扉をくぐって、ソフィとヒンは帰還する。

 


・・・・・

伝わったかな?「未来で待ってて」がどんな意味をもつのか。

色んな要素が入り乱れているし、通常では使わない概念がてんこ盛りだから、
こんな解説だけで解った人がいたらむしろビビるけどw

 


当時のスレでは、ここがメインディッシュだったので、
後は雑感やQ&Aになっていく。

 

 

 

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