いつも長すぎると言われるので、考察だけ短くまとめとく。
・海に落ちた隕石に含まれていた微生物が、地球の生命の起源となった、パンスペルミア説。
君の名は、やポニョ、ヴィーナス誕生の神話などでも示唆される、普遍的なモチーフが物語の核になっている。
男女の役の入れ替わり、反転のモチーフも君の名はに似てるなあ。
海君が琉花に見せてくれた人魂、海君が飲む流星は、卵子と結合する精子的なものと符合する。
・空君はセイレーン、海君は人魚姫。
アンデルセンの人魚姫、人魚姫は王子に恋をして、
声を失い足も痛むけれど、海をでて陸の王子に会いに行く、
けれど王子は声の無い少女ではなく、隣国の王女に夢中で、
失恋した人魚姫は海の泡、空気の精になる。
海君(人魚姫)は琉花(王子)と出会い、彼女を探して人魂を一緒に見たいと思う。好きになってる。
琉花が波打ち際で空君(隣国の王女)と出会い、何よアイツ意地悪ね、とか意識しだすと、
海君は声がでなくなってしまう。人魚姫は、王子に自分を見てほしいとは言えないからだ。
空君はセイレーン、セイレーンは魔性の歌で船乗りを誘惑して海に落とす。
けれど船乗りが誘惑を退けると、セイレーンは身を投げて岩になってしまうという。
空君は「おねいさん、さみしいなら、遊んであげようか」と妖しく誘う。
波打ち際で空君が腰かけている岩が、映像のなかで強調されている。
琉花は、海君を選ぶ。心のやりとりをして、映画では腕を掴みかえしている。
誘惑を退けられたセイレーンの空君は退場する。
琉花に口移しで隕石を渡した時、突き飛ばされて拒否されてる。
海君(人魚姫)は、恋はかなうんだけど、泡になってほどけてしまう。
男女が両想いになれば、次にすることは繁殖で、隕石と海が混交して泡になることは、次の生命系の誕生を意味するからだ。空気の精は光の柱になって昇っていく。
・琉花、ルカ、LUCA
ルカ、はもともと男性名なので王子的な名前としてもいける。
LUCAは生物学の用語で、全生命共通の始祖型生命。真菌、古細菌、微細な生命の祖。
パンスペルミア説でいうところの、隕石に含まれていた生命の素のこと。
・腹に女神の姿をもつクジラ
クジラの歌で、ありふれたコンドライトの隕石は、生命の素、とめどなく水を生む石として目覚める。
前作魔女に、似た設定の隕石と、その世界観の説明がある。
石は固有の性質を秘めていて、なんらかの条件によって覚醒する、というものだ。
クジラは産道でもある。
クジラの腹で気を失ったあとは、水に満ちた狭い洞窟だ、トンネルを進んでいく。
それは産道の普遍的なイメージだ。そういうところを通ってすべては生まれてくる。
隕石を飲んだ海君、精子を受精した卵子、受精卵の海君はそこをくぐって、
誕生祭で新しい生命系や銀河のような渦巻きに生まれ変わる。
人魚の肉を食べた者は、不老不死になるという。
琉花は、泡、渦巻きをひとつ、握ってもちかえり、食べる。それは海君、人魚姫の一部でもある。
琉花は長命になるだろう。齢とって語り部になるのもそんな感じの描写だ。
・アングラードの失言
彼がジムに焼き討ちにされて、誕生祭に居合わせることができないのは、あまりにおしゃべりが過ぎた。
「どちらが特等席につけるか、競争しよう」これがマズイ。
口は禍(わざわい)のもと、というのは前作魔女にもある。
アングラードとジム、
そそのかす者と実行する者、
直感はあるけど実行の力をもたない者と、能力はあるけど直感や正しい心をもたない者
というペアの作り方も、
魔女やディザインズで似た関係性がくり返し描かれている。
彼らは、調和した心と力を併せ持つ主人公達に対して、
不完全な者、黒幕、敵キャラとして描かれる。
調和、それが秘密へ至る道のヒント、あるいは秘密の感覚そのものだ。
何度も渦巻き、螺旋、回転イメージが出てくるのもそれを示している。
この先はどうしても考察を逸脱した解釈になるので、他記事にわける。