ものがたりを解釈する

アニメ、漫画、小説、神話、あらゆるものが語りかけてくること。最も深遠な、でも誰にでも開かれている秘密に、解釈というメソッドで触れていく。

ハウルの動く城を解釈する6 サリマン、支配者とは。

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自分がスレッドで解説をやっていた当時、
サリマンについて書くと語調が荒くなり、レスも荒れがちだった。

それは自分が「支配者を許せない」というガラクタの思考パターンをもっていたからだ。
サリマンと戦おうとするハウルの段階だ。
それはまだ、対立・反抗であって、自立・自由ではない。
対立を生むパターンを手放す方法も機がある毎に紹介していく。

 

ここまで、サリマンは「支配する母性」だと繰り返してきた。
でも、サリマンはハウルの先生というだけじゃない。

「総理大臣と参謀長を呼びなさい、この馬鹿げた戦争を終わらせましょう。」
大臣たちを自分の前に呼びつけて、戦争を終わらせる算段をするという、
もうそれは要職どころか国、政治のトップってことだ。
加えて魔法学校の校長、トップでもある。

 

サリマンは支配する母性以上の 「支配」 そのものの象徴として描かれている。

 

これはそろそろ人類が超えていかなくてはいけない大きなテーマなんだってさ。
それには対立ではなく、心を完成させることなんだよ、とハウルの動く城は教えてくれる。

宮崎駿はマジで天才だなー、
漫画ナウシカでも墓所とその番人という支配者の存在を描いていた。
でもあん時ゃまだ、そういうやつは巨神兵のビームでぶっとばす!ていうオチだったから、
彼にもその段階があって、超えてきた、考え続けて成長してきたんだ。


ところで、サリマンは総理大臣と参謀長を呼んで、王様は呼んでない。
そりゃそうだろう、あの王様は明らかにアホの子だった。

 

王様が、なんか紙をひらひらさせながらやってくる場面は、紅の豚の一場面とよく似てる。

ジーナの庭にカーチスが来て、手紙を渡して、俺は大統領になる!と息巻いて口説くところだ。

カーチスと王様の声優も大塚明夫で同じ。中庭の東屋と温室、座ってるジーナと車椅子のサリマン、図像の要素も照応してる。面長で角ばって頬骨が目立つ顔もよく似てる。

 

つまり王様の中身は、ほぼカーチスだ。愛すべきアホで間違いない。

あの王様はお飾りだ。ソフィが「みんなのこと考えるのが王様でしょ」なんて言ってたのが、あまっちょろい考えで、
ハウルは「ソフィはあの人達を知らないんだ」ってやれやれって顔してた。

 

王国の実質の最高権力者は、サリマンだ。
サリマンは軍隊や水兵、飛行機や爆弾などの現実の武力も行使できるし、
魔法学校のシーンはないけど、雑魚魔法使いが変身した怪物や、黒いゴム人間も差し向けてくる。

見える世界と見えない世界の両方を掌握して、君臨している。

 


Q ハウルは何故、王様の変装をしていったのかな?

 


サリマンは本当に怖い人だし、ハウルはビビり。
ソフィがかっこよく啖呵をきった後ですら、
そのままの姿では出て行けなかったと思われる。

王様だったら堂々とした態度でサリマンの前に出ていける人だし、
サリマンも王には「恐れ入ります」とか敬意ある態度だった。
やたら堂々としてたのも、本物の王のアホっぷりと対比する演出のほかにも、
恐ろしさの裏返しで虚勢をはっていたのかも。

黒髪に派手な外套なんて恰好で出ていっても、

サリマン「よく来ましたねハウル、さあさあ私のところへ帰って来なさい、
私はあなたのためを思って言っているのですよ。」

ハウル「 」 gkbr
っていうやりとりになってしまいそうだw

 

金髪、派手はサリマンの趣味で、支配の影響下にある姿、

ゲルが出るほど落ち込むのは「母性の支配」を自覚した痛みのあらわれ、
ベットで寝てたり、毛布巻きは、ひとつ乗り越えた痛みを癒している姿。

王様の顔と軍服は、直接対決の装い。軍服はモロ戦闘の衣裳だ。

で、黒髪に白シャツ黒ズボンは、かなりすっきりしたフォーマット、初期化の姿。

ラストの飛ぶ城ではピンク色の服を着てる。
これは少年時代と同じ色なので、本来の自分をとりもどしてるんだと思う。


そして、ソフィの「お言葉ですが」あれがいかに知恵と勇気ある姿なのか知るため、
ちょっとあのへんのサリマンの話術を詳しくみてみる。

 

サリマンは虚実を織り交ぜて話をする。
これをされると、まるっきりの嘘より、嘘を見抜けなくなるんだ。

 

「あの子は私の最後の弟子、ようやく跡継ぎに巡り合えたと、本当にうれしかったのです。」
これは本当だ。たっぷり情感をもたせてツカミはばっちり、
ここでサリマンをいい人そうじゃんと思った人は術中にはまっている。

 

「あの子は悪魔に心を奪われ、私のもとを去りました。」
ここに巧妙な嘘がある。確かに悪魔に心臓は渡したが、
逃げたのはサリマンに支配されるのが嫌になったからだ。
ハウルに自立心が芽生えたからだ。
サリマンの裏の顔が恐ろしくなったということもありそう。

 

「あの子はとても危険です、心をなくしたのに力があり過ぎるのです」
これは本当。心配してる気持ちも本当だ。

 

荒れ地の魔女の話をして、
「王国は今、いかがわしい魔法使いを野放しにはできません」
それはまあ、そうかもね。
でもそういう情勢を作り上げているのは他ならぬサリマンなんだが。

 

ハウルが王国のために力を尽くすなら」
はいここ!嘘だッッ!
正しくはサリマンのために力を尽くすなら、だ。
それを国のためだと言い換えてる。

 

「悪魔と手を切る方法を教えましょう」
これも嘘。
サリマンもハウルと同じ流れ星を行使してるからね。
サリマンが知っているのは、対価、代償を自分で払わない方法だ。
他者に支払わせるのはほんとに後生が良くないからやめとくべき。

先延ばしに過ぎず、いつかは自分で引き受けないといけない。それが因果だ。

 

「来ないなら力を奪い取ります、その女のように」
ここで明確に脅しをかけてくる。だから

「お言葉ですが」という反撃の糸口になるんだ。

 

支配者 というのはこういう話術を使う。

 

国のためにとか大義のためにとか、
あなたのためを思って言っているのよ、

みたいな言葉には気を付けた方がいい。
そこには支配するものの思惑が隠れている。

 

魔法 というのは方法論なので善悪はない。

 

野菜を切るのは良い包丁で、人を刺すのは悪い包丁、
と言われたら、ん?と思うよね。

 

包丁はあくまで道具で、使う人が問題なのでは?と。

 

良い魔法、悪い魔法 っていうのも同じで、
良い目的で魔法を使う人と、
悪い目的で魔法を使う人がいるだけだ。

 

科学だってそうだ。発電方法、化学反応の制御、ネットワーク。

平和利用も軍事転用もできる。使う者の心次第だ。

良い科学、悪い科学、なんて言ってたら、ん?と思うだろう。

 

サリマンの話術は実に巧みだ。加藤治子の演技も実に匠だし。

 

そんな支配する者、サリマンにも救済がある。ヒンだ。

 

ヒンってハウルたちが温室の天井を破って逃げる時、 耳をはばたかせて飛んでついて来る。 「おまえ飛べたんかい!」ってツッコんだよ思わず。

 

だってヒンは、階段の下でぐるぐる回って、登れないよ~ってアピってくる。
だからソフィが抱えてえっちらおっちら上ってたじゃないか。

 

自分は、ヒンがソフィってどんな人物なのか試してるっていうか、
あそこで自分も年老いてても、より弱いものを助け、
荒地の魔女が仇であっても労わって励ましちゃう人物だったから、
ヒンはサリマンからソフィに浮気wして、ついてくるのかと思ってたけど。

 

ヒンはソフィーがいないと、 上 に行けない。

それは、クライマックスの暗示でもある。

 

サリマンは、 あの雲より上の領域に自分の意志でアクセスすることはできない。
支配したいという思考パターンもまた、重たいガラクタだからだ。

 

ヒンはソフィについていくことで扉の向こう、ハウルの心の中、そしてあの黒い穴に飛び込むよね。
あそこで、サリマンの心の中でも決定的になにかが変わったと思う。

奇跡 創造 愛 無限 0 と呼ばれるものに触れることはとても素晴らしいことだ。
それまでの人生のすべて、カルマのすべてに魂のレベルで変化が起きることも十分ありえる。

 

サリマンの一部であるヒンがソフィについていって、 そして本物の秘密に触れた。
そこでサリマンの心にも変化が起き、ハウルへの執着を手放した。

だから「しょうがないわね」の苦笑で済むんだ。

 

ソフィ、ハウル荒地の魔女、彼らの成した統合と調和に巻き込まれたことによって、
サリマンもガラクタの思考パターンをいくらかを手放した、とすれば。

物語の後では、ひょっとしたらより善き為政者、より善き教育者になって、
あの戦争ばっかりみたいな感じの世界を良い方へ導いてくれるかもしれない。
ヒンが分離したままなのがアレだけど。

なんせ政治や魔法に卓越した、優れた人物であることには違いないんだから。

 

サリマンの救済と言えば、もうひとつポニョにもある。

ひまわりの家のおばあちゃん達は、車椅子に座って赤い膝掛けをかけてる。
サリマンも赤い服で車椅子だ。

あのおばあちゃん達は、後半は車椅子は置きっぱなしで、みんなで駆けっこしてた。

きっとあの中に、サリマンもいるんだろう。

 

坊、カーチス、サリマン、宮崎駿は、自分が創ったキャラを不遇のままにしておけない人らしいね。

姿を変えて、次の作品でなにか救済があったりする。

同じ作者の作品を続けて読んでると、そういうことは結構あるものだ。

 

 

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