ものがたりを解釈する

アニメ、漫画、小説、神話、あらゆるものが語りかけてくること。最も深遠な、でも誰にでも開かれている秘密に、解釈というメソッドで触れていく。

無職転生を解釈する。ちゃんと生きる、とは。

 『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』 オリジナル・サウンドトラック

 

無職転生異世界行ったら本気出す~

 

アニメの先が待てずに原作のなろうサイトのテキストの方を読破してしまった。

なかなかのボリュームで満腹満腹、の勢いで書く。全ネタバレあり注意で!

 

しかし、なろう系といえば、

転スラや不適合者やオバロのような魔王が主人公のものや、最近流行りのザマァスカッと系のような変化球というか、

派生と邪道と奇抜をやり尽くしている文化の爛熟期な雰囲気に慣れたところからだと、

 

無職転生はまだなんていうか、王道でコテコテの一番出汁というか。

なろう黎明期の雰囲気があって、初見なのに妙に懐かしい読み心地だった。

アニメも古典的ファンタジーな感じを存分に感じられる丁寧なつくりでよきよき。

しかし2012年の作品がもう古典扱いという、界隈の新陳代謝の早さよ。

 

というか、古来より魔王と勇者のファンタジーな物語というのは、

父の背中を追って育ち、父性を打倒して自我を確立するという、

少年期から青年期への通過儀礼の物語であることが多いのだが、

 

無職転生では、幼少期の親との関係から、師を得て外界を学び、父と対立して和解する段階と、更にそのちょい先まで、

主人公自身が妻と子を得て家長となり、就職して上司について同僚と仕事して苦労して、育った子どもを送り出して、という、

スタンダードでステレオタイプで、時に困難な男性の成長段階を描いていく。

 

剣と魔法のありがちなファンタジー世界で、それをやるギャップが面白かった。

そういう異世界というのは往々にしてネバーランドというか、

大人になりたくないピーターパンな少年が、いつまでも万能感に浸って遊んでいられる世界だと思うのだが、

異世界行ったら本気出す~はそのサブタイトルのとおりに、ごくごく真っ当な人生をやりなおして歩んでいく。

その初志を貫徹する主人公は好感がもてた。

等身大の人間として育ち学び、老いて死ぬところまで、ダイジェストで描いていくんだもんなー。

昨今の若年層向けの作品は、青春が固定されてサザエさんワールドになりがちので、

 

どんどん年齢を重ねていく主人公というのは、この物語の最大の特徴といえると思う。

 

まあ、転生開始時点の三十代なかばの段階で物語が完結するので、

主人公自身がトップとなり目下を率いて事を成し、いずれ打倒され世代交代が云々、的なくだりは省略となる。ちょっと読みたかったけどw

しかしそんなことを一人称視点で実感たっぷりに書けたら作者は何歳なんだよって話だしな。

読者層のニーズにも合わないし。

  

この手のなろう系は、一人称視点の語り口調の文体が多く、

無職転生も例にもれず主人公ルーデウスの独白が続くのだが。

 

読めば読むほど、彼のキャラは5種体癖そのもので非常に興味深いものがあった。

これが5種か~、っていう感じが知りたければ無職転生は素晴らしい教科書になると思う。

 

体癖 - Wikipedia

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ルーデウスのキャラは、

他者から見ると、非常にフレンドリーかつどことなく胡散臭い人物となる。

誰に対してもまず友好的であり交渉ありきで、威圧感やマウントはないが、

敬語で敬遠、にこやかに距離をとって本心を見せない奴、という感じもするだろう。

 

ルーデウスはすぐ正座や土下座をするギャグがあるが、

ああいうビジネス土下座ができるのは5種だ。平身低頭に抵抗が少ない。

メリットとプライドを天秤にかけると、メリットが勝つ。

というか常にメリットとデメリットという天秤が気になるタイプだ。

市場調査や金勘定も得意で、5種は損得が感受性の中心、というのが実にしっくりくるキャラクターになっている。エロいかどうかは知らん。

 

器用でなんでもできるけど、極めるということは苦手な器用貧乏でもある。

物事を究めるに向くのは9種か1種であり、その仕事は他キャラに分担されていた。

 

 

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対人関係においてプライド優先で、初対面で威圧感が出るのは7種だ。

ギレーヌ、エリス、ルイジェルド、リニア、オルステッド、クレア、アレクサンダーなど捻れ型っぽい人が非常に多く、彼らのいずれかが登場してると物語はテンポよく進んでいく。

 

確かに、

7種の積極性を前面に押し出し、5種の外交力でフォローしていくというのは、

資本主義社会のビジネスにおける必勝パターンと言っても過言ではない。

7種社長と5種営業なら最強ベンチャータッグだ。

 

逆に、物語が低調なときのパーティには7種の人がいないのも興味深い。

迷宮攻略の時とシーローン王国政変の時、敗北した時のメンバーには7種ぽい人がいない。

体癖からしても妙に説得力があるというかw 作者の展開のクセが見てとれる。

 

主要キャラの性格を体癖におきかえてみると、

ヒロイン1のロキシーは1種、自主自律の教師タイプ。

ヒロイン2のシルフィは4種、受け身で流されやすい。

主人公の父パウロは6種かな。

ギースは2種かな、ジンクス、マイルールに従う。

ヒトガミは3種か。

ザノバは9種、クリフは1種。アイシャは5種。

みたいな感触だ。そこらへんはまた別記事にまとめた。

 

とくにエルフのシルフィが4種っていうのは似合うな~と思った。

4種傾向というのは、細身で色白、繊細そうで何を考えているか読めない神秘的な感じっていうアレだからな。

いわゆるエルフな外見から体癖を想定すると、ああいう性格になるのは説得力がある。

ハイエルフの森 ディードリット物語 (角川スニーカー文庫)

大学編で、受け身のシルフィと八方美人のルーデウスだけだと、もだもだして全然先へ進まないのはさもありなんって感じだった。

リニアとプルセナという7種キャラの推進力で展開させるしかなかったんだろーなって感じ。

 

で、

 

一人称の独白、ルーデウスの内面に注目すると、不安の描写がものすごく多い。

うまくいかなかったらどうしよう、という不安材料を一通り列挙しないと気が済まないんだろうなって感じで、

毎回くどくどくよくよしてて、読んでて共感するというよりもはやウザいの域。

 

一個人で天災レベルの魔術というチートを持っているのに、俺TUEEEができない。

力があっても金があってもコネがあっても、彼は安心できないのだ。

常に不安があり、その不安を表現することなく抱え込み、行動することで紛らわして進んでいく。それが5種体癖の心の形だ。

 

同じ不安をもつ呼吸器型前後型でも、陰型の6種だったら「ボク不安なの(チラッ)」というふうに、かわいそぶって気を惹く手練手管で誰かの助力をとりつけることができるのだが。

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気取り屋のハウルが「僕は本当は弱虫なんだ」で母性をくすぐる、ああいうの。

そういえば父パウロがそんなモテテクを伝授していたけどもw

合わないことは身につかんわなー。

 

5種はギリのギリまで溜め込んで我慢してしまう。

迷宮攻略後の惨状でもルーデウスは助けを求めるというアクションをとれなかった。

5種の人が弱音を吐くときはマジでギリなので、真剣に優しくせんといけん。

 

しかし5種の不安は原動力でもあるので、

満たされてしまうと怠惰になる、ということらしいのだが、

ルーデウス自身も最期の夢で、

強大な敵に備えるという目標があったから死ぬまで動けた。

明確な目的がいなければそこそこで満足して、二十代以降はダラけていっただろうから、感謝してる。と宿敵に語りかけたりしている。

体癖のことなんか知らなくてもそういう言葉が出てくるのが、真摯な表現は真実に行きつくんだなーって感じがしてシビれた。

 

物語の主人公といえば、独立独歩というか、自分だけの動機や大志をもつものだけど、

ルーデウスは割と小心というか、家庭が平和ならよしというリアリストで、大それたことを夢見ないので、

そのささやかな日々のためには天災級の魔術やパワードスーツやもろもろのチートスキルは過ぎたものとなる。

チートを必要とする大望をもつのは、雇用主である龍神オルステッドで、

主人公が誰かの部下、誰かの手足となって働くという設定も珍しかったな~。

下克上しない副官が主人公っていう。

 

5種の主人公の周りに常に7種の人がいるという物語になっているのだが、

 

ギレーヌとエリスで、乱暴で反抗的な子どもが忍耐を覚えていく過程、

武を志すと伸びていく性質、強敵に立ち向かう積極果敢な勇気。

リニアとプルセナで、不良になりがちで自分より強いボスには服従する面、

ルイジェルドとオルステッドで、威圧的で寡黙だけど子分がいると幸せな親分の気質、

クレアで、マウントとりがちで、絶対謝りたくなくて、加齢で意固地になりがちな欠点があって、改心すると義理堅いとか、

 

老若男女の7種キャラが登場することで、7種のライフステージも網羅している感がある。

 

エリスの修行シーンの、延々と剣の素振りをしながら、

考えるのに疲れたら体を動かし、身体を動かすのに疲れたら考える。

それを繰り返すという哲学は、7種の育成はまさにそれ、というものに思えた。

基本的に脳筋で、身体を動かすとだいたいのことはスッキリするんだよなww

7種は運動不足だと不良少年になりがちで、それは説教では矯正できるものではないらしい。

言葉じゃなくて身体でわからないといけないタイプなのだ。

アトーフェも7種かな、話し合いじゃなくて殴り合いしか通じないけど、ピンチの時はしっかり頼れる。

 

そして、ルーデウスと対峙する最後の7種キャラは剣神アレクサンダー。

 

ルーデウス、というか5種体癖は欠点として、

損切りが早くて、すぐ逃げるというのがある。

 

「脱兎」とか「逃げ腰」という綽名があるというエピソードは的確だ。

「低頭」とか腰巾着とか詐欺師とか、全部5種の綽名として的確で草生えるw

 

VSアレクサンダーでも、そういう弱さは常に彼の頭をよぎる。

ギリギリの拮抗のなかで、刺し違えてでもトドメをさす、みたいなリスクを恐れる。

そこまでしなくてもいいんじゃないか、と思ってしまう。

 

でもずっと、ルーデウスは7種の積極性を間近に感じ、ともに戦ってきた。

「詰めの甘い女ではない」エリスの心と動きをなぞるように、

すべてを出し尽くして戦う。最後の一歩を強く踏み込む。

 

それがクライマックスに相応しい成長だったと思う。

長所も短所も5種体癖そのものだったルーデウスが、

二十年かけて人と関わるなかで、7種の強さをその身に得る物語だった。

時には打算を捨て、やる時はやる男になったのだ。

 

 

 

…と、最近ハマってる体癖の視点からだと、そういう感じに読めた。

体癖の言葉を使うと便利に分類することができたが、

その概念がなかったとしても、

無職転生は、キャラクターの造詣にすごく説得力があったのは間違いのないところだと思う。

 

 

 

体癖、体格、性格、感受性の形。

生まれ持ったものは容易に変え難いけれど、

人生には様々な局面があって、

いつもどおりのクセだけでは通用しない場面は必ず来る。

 

その時、今までどおりの自己流で押し通すのではなく、

波に合わせて変わっていけるといい。

 

変わるための材料が揃ったころに転機が、試練が訪れるものだと言ってもいい。

 

ルーデウスが自分のやり方では状況を切り抜けられないと直感した時、

エリスの姿がありありと浮かんで、そのとおりに動けたように。

 

心を開けば、ただ無心で行えば、

正解はすでに知っていた、ということになるはずだ。

ずっと学んでいたことを、真に体得するために試練は用意される。

ということかもしれない。

 

私達はみんな、本当に必要なことは、いつも知っている。

 

不足に喘ぎ、なにかを怖れているのは、ごく表層の自意識に過ぎない。

 

自分だと思っているもの、握り締めているもの、自我を手放してみるとよくわかる。

それは極限状態か、瞑想状態ってことだけど。

 

 

 

ん~、つまり通常の自我、日常の自分っていうのは省エネモードなのかもな。

表の体癖のとおり、クセどおり、誰かのいう通りのルーティンで生活してれば、エネルギーの消費は少なくて済む。

 

ただそれは、いざって時のために本気を温存してるってことのはずなのに。

本気の出し方を知らないで、温存モード、省エネモードのまま、

それが自分だと思ったまま、生きて死んじゃうとなったらもったいないじゃん?

昨今よくある笑えない話だけどさ。

 

覚醒モードの自分、知るべきことはすべて知っていて、それをおこなうだけ、というあの集中した静かな気持ち。涅槃寂静な心。

あれがもっと欲しい。生きているってことは、あそこにある。

 

安全で鈍った人間の社会のなかで暮らしてると、平時と危地の切り替えが無くなる。

自然のなかで暮らしてる動物は、食うか食われるかの時には即座に、すべての感覚を開いて切り抜けるモードへ移行できる。

 

あの感じを、あらためて体得していくってことかな。

人の野生を、天心を、インスピレーションを、すべてを越えて至る境地を。

 

 

 どうすればいいかな。

 

 ・・・・、とりあえず、素振りでもするか。

ルーデウスも、魔術に慢心しないで体も鍛えてたし、

心技体の一致するところにも、それはある。

 

 

 

 

小説家になろうサイト

 無職転生異世界行ったら本気出す~

https://ncode.syosetu.com/n9669bk/

 

 

 

体癖参考文献。

 

 

inspiration.hateblo.jp

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