ものがたりを解釈する

アニメ、漫画、小説、神話、あらゆるものが語りかけてくること。最も深遠な、でも誰にでも開かれている秘密に、解釈というメソッドで触れていく。

パプリカを回顧する。

 

パプリカ

 

地上波放送するとニュースになってて懐かしくなり。

DVD持ってるので、見なおしてみた。

 

animeanime.jp

 

 

今敏監督を始めて知ったのは、

確か自分が大学生のころ、講演に来たんじゃなかったっけ?

それで講義室で過去作の視聴会やってて、

パーフェクトブルーを見て震えた記憶。

 

アニメであそこまでのサイコホラーは今に至るも見ない気がする。

 

夢か現実か妄想なのか、わからなくなる演出が巧過ぎるんだよな・・・。

 

人がどうモノを見てるのか、意識の連続性とその穴、緊張と緩和の隙を知り尽くしてるって感じの映像の切り替え方っていうか。

今敏監督でしかあり得ない節回しが凄くてさあ。

ゴッドファーザーズもパーフェクトブルーも何回もビデオをレンタルして見たっけ。

妄想代理人は何話も見るうちにわけわかんなくなったしまった気がする。

 

パプリカは劇場で見て、DVDまで買ったのは、

YouTubeの動画で済ますものじゃなかったあのころ、

耳目からイれるドラッグとでもいうべきパレードを繰り返しキメたかったからにほかならないが、

当時お金なかったのによく買ったよなー。

そういえば筒井康隆の原作も買った気がする。

2人いた協力者のキャラを1人の刑事にまとめたのが、

時短の意味でも、キャラ造形の意味でも巧かった、という感想をもった記憶。

 


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なかなか気の利いた編集のMAD、

もうこれが本編でいいが?ガンギマリで脳汁ブシャーだが?

 

オタク青年の自己イメージが市松人形というのは、

男児に女名や幼名をつけたり、女児の着物をきせたりという古い風習だな。

男児の乳幼児死亡率が高かった時代、そうやって男児が生き延びるよう願をかけたという。氷室君はええとこのボンなのか。

 

漫画、百鬼夜行抄の主人公がそんな生い立ちの設定だったなぁ。

ああそうだ、パレードの先頭を家電が歩いてくるのは百鬼夜行のオマージュみたいにも見える。

年経た器物が変化(へんげ)となる、付喪神のようだ。

 

白虎野の娘はしばらく着メロ(着メロwwww)にしてたなあ。


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パプリカのパンチラって萌えもエロスもなくて、

見てはいけないものを見てしまったいたたまれなさになる件。

今敏のキャラデザがリアル寄りサスペンス向け過ぎるんだろうな・・・。

 

普通に一度見るだけでは、悪夢のパレードの全部を把握できないのがイイんだよな。

招き猫、福助信楽焼の狸、鬼瓦、人体模型、マトリョーシカ、超合金ロボ、

さすがに版権キャラクターはいないのだが、だいぶそれっぽく仕上げてるのとか。

どこかで見覚えのあるものや、昭和ノスタルジックなものばかりで画面が埋め尽くされていて、

知ってるやつがいないか、一時停止を駆使してチェックしたくなる。

 

終盤に出てくる小さな大名行列とピンクの象は、アル中やヤク中の見る幻覚の定番らしいね。

アメリカ人はピンクの象を見て、日本人は小さい大名行列を見るという。

ちっさいおっさん、とかいうものが都市伝説的に流行ったことがあったけど、同類だろうか?

ミームというのは不思議だ。

中国の古典にも鼠の小人が裁判ごっこで断罪してくる幻覚っていうのがあるらしいが、原典があるからどう、ということでもないんだろうな。

諸星大二郎の漫画で読んだ。小人怪。

 

 

 

そうだ。

この間ドキュメント72で「まぼろし博覧会」という静岡の展示施設に密着した回を見たんだけど。

locatv.com

 

パプリカに共通する世界観を感じたよね~。すごく行ってみたい。

 

広告、看板、人形、

大衆の娯楽のために生み出され、飽きられ廃れ、朽ちていくばかりのものを集めた、

懐かしくてグロテスクで哀愁漂う、賑やかな墓場、とでもいうのか。

 

ああいうの、なんていうジャンルなんだろ。

漫画家でいうと丸尾末広みたいな。

 

昭和レトロ、ノスタルジック、アングラ、幻想的、怪奇趣味・・・。

 

見世物小屋やサーカス、鳥居や縁日、パレード、廃遊園地、ストリップ劇場や映画館。

 

夜に属するものや、非日常へ誘うもの。

 

日常の反対、陽のあたるところの反対、理性と秩序の反対、顕の世界の反対。

 

悪夢の世界。

 

パプリカは、

そんなイメージの集合体である映像が本領であって、

ストーリーとかどーでもいいといえばいいのだが。

 

 

 

まあ、改めて見てよく出来てると思ったのはまず、

 

夢探偵であるパプリカの、クライアントへの態度だ。

 

クライアントは不安神経症に苦しむ中年の刑事で、夢を介したセラピーを依頼する。

パプリカは、本職は精神科医なのだが、正体を隠して接する。

髪型を変え、態度も素とまるで違う。

 

なるほど。

 

精神を病んだ人を診るとき、気をつけないといけないのは依存、共依存、精神汚染だ。

刑事はたまたま真っ当な大人だったけど、

メンヘラ 心の弱った人は話を聞いてくれる人にすぐ全力で寄りかかろうとするからな。

鬼電とか鬼lineとかリスカ匂わせとか。

 

刑事はマトモだったけど、それでもパプリカに好意を抱くわけで、

クライアントにいちいち惚れられてたら仕事にならない。

正体不明の夢のような女性、それ以上の接触も詮索もさせない。

肉を持った具体的な存在にならないよう装う。

 

パプリカ、という非現実的な名前、アバター、ペルソナを使って、

クライアントと適切な、精神的な距離をとるのだ。

 

普通の精神科医でも、病院にいて白衣を着ている医者モードの時しか、患者は診ないのと同じ。

 

白衣やパプリカという姿形で、公私を切り替える。

 

で、パプリカはセラピーといいつつ、ただ一緒に夢を見てくれるだけだ。分析も解説もしない。

刑事は「どうだ俺の夢は?」「なにか判ったか?」とか、性急に原因を知ろうとする。

あるいは答えを与えてもらいたがる。

 

しかし、トラウマというものは、見たくないモノ、というのは厄介なものだ。

 

夢には、すべてのヒントが散らばっているのに、

トラウマを直視できない心は強烈な抵抗を示す。

 

俯瞰する視聴者からすれば答えは明白で

「映画について、昔なにか嫌なことがあったんでしょ?」

とズバッと斬りこんでみたくなるが、

そんなことをすれば、刑事は激高し、心を閉ざす。

どんな信頼関係も一瞬で壊れるだろう。

 

他者からすれば、なんてことのないコンプレックスや心の痛みであっても、

本人にとっては、

 

見たくないものを見るくらいなら目を潰し、

聞きたくないものを聞くくらいなら耳を潰し、

認めたくないものを認めるくらいなら、いっそ狂ってしまうほど。

 

それほど、抵抗というのは強烈なのだ。

 

繰り返しヒントを与え、繰り返し寄り添い、

本人の準備が整って、本人が気がつくのを待つ。

 

それが優れたセラピストの態度なんだろうなー、と思った。

その点、夢探偵パプリカの振る舞いは説得力があって非常に良かった。

刑事は、自分の問題に自問自答で気がつく。

そこんとこの解決は実に素晴らしかった。

 

 

 

 

いや、褒めたいとこは色々あるんだけど、

やっぱりラストがちょっとね・・・。巨大化で解決ってそれはさあ・・・。

 

いや、わかるよ?

暗黒大魔王の内容は男×男で、しかも足が不自由なコンプレックスから若い肉体美だけを欲するハゲジジが、抑圧だらけでしかも嫌がってる人物を取り込んだもの。

彼が死ぬところで癒着したから、黒い穴という根源的な死のイメージの力を行使する。

 

それと、

困難のなかでも助け合い、素直になって愛し合う男女の陰陽和合から新たに誕生したものと、

 

致死と誕生の対比でもあり、

力比べでどっちが強いかって、そりゃ後者だよね。

 

でも、力比べで終わってどうするwww

 

人が、夢に、干渉することを、どうしていくかっていう問題がほったらかしやないかい。

 

セラピーの道具として使われているデバイス、DCミニ。

人の夢を画面に写し、他人の夢に介入、干渉できる道具。

 

しかし、物語の途中からデバイスを装着することなしに、その能力と効果は波及をはじめる。

 

街中の人間が同じ悪夢を体験し、その意識の力が実際の破壊を生む。

 

見てて思うのは、あれはテレパシーみたいな、人に本来備わってる能力を拡張や増幅する道具なんじゃないかってことだ。あまりに小型だし。

 

そういう能力、普段でも使っている共感能力の先にあるものだけど。

 

機械による補助や、科学的であるという安心感、好奇心や探究心のままにそういう能力を使い続けることで、

 

多分、脳がその能力を覚えちゃうんだよなー。

 

夢の通い路も、通い慣れればより繋がりやすくなる。

 

バイス無しでも、同じ力を再現できるようになるのは、そういうことなんじゃないかと思う。

 

結末の後でも、研究所ではあのデバイスの開発や実験を続けるだろう。

人間っていうのは、できそうなことはやらないと気が済まない生き物だ。

 

バイスが無かったとしても、人の夢に干渉する能力を得た主人公は、その力を使い続けるだろうね。夢探偵を続ける。

 

集団悪夢を経験した人達にも、能力の使い方を覚える人がでてくる可能性もありそう。後遺症というか副次作用というか。

 

多くの物語が示唆するところだけど、

人間ていうのは、他者と接続してより大きな意識になりたい、というような希求を持っている。

人類補完計画しかり、シビュラしかり、御坂妹しかり、電脳化しかり。

 

脳というのはスタンドアローンでも使えるけど、

ユニットとしても使える。

接続していくことで、等比数列的に処理は向上する。

 

ただ、あらゆる能力は諸刃の刃だ。

意識のネットワークにもリスクがある。

 

増大した処理が逆流したとき、それがネガティブな想念であった場合、個人の容量では耐えられない、ということだ。

精神汚染に、覚醒できない悪夢のパレードになる。

 

意識を楽器で例えると解りやすいけど、

バイオリンはソロで奏でてもいいし、

オーケストラに参加してより大きな交響曲の一部になることもできる。

ただそれは、きちんと調律がされていればの話だ。

チューニングの狂った楽器がひとつ鳴っているだけで全体の調和が狂い、他の楽器の調律までおかしくなる。

みたいなことだ。

 

あんな不協和音を鳴らすオーケストラ、大規模な集団精神汚染が発生した場合、

どんな解決法があるんだろうな~。

 

多分それは、力比べじゃないってことだけは解るのだがwww

 

うーん。まず原因になってる理事長と研究員の癒着を引き剥がすこと。

理事長の誇大妄想、夢の番人を謳う動機を解体すること。

足の不自由さや衰えによる喪失感や無力感の反動で、夢の全能感に酔い、支配欲になってる感じっぽい。

人物の背景は刑事と変わらないほど作りこまれていて読み取れ・・・、

 

あー、だから、そうか。

巨大化、レベルをあげて物理で殴るみたいな解決じゃなくて、

夢探偵で解決して欲しかったんだな。

 

自分のなかでは、それが納得のラストなのかも。

 

まあ、本人が気がつくまで待つスタンスのパプリカでは、時間がいくらあっても足りないか?

いや、夢に時間の制約はないけど。

人生周回するくらい、一炊の夢で済む。それが夢。

 

理事長に矛盾を自覚させて悔いさせて、ザマァしたかった~。(´Д`)

 

彼は来世に業を持ち越しだな。ご愁傷様だ。

 

しかし、

街中に悪夢を拡大させた暗黒大魔王は、人の傲慢から夢を守るなどと言いつつ、

結果として多くの人に夢に干渉できる可能性を体験させてしまったわけだなあ。

 

DCミニや、夢セラピーの有効さを宣伝する結果になったという皮肉。

 

 

 

 

それにしても、夢か。

 

夢で他者とつながっていく、という方向性は確かに大切だ。

虫の知らせや予知夢とか、集合的無意識へアクセスしていくこと。

 

でも夢はまず、自分のために見ないとな。

 

多忙な夢探偵には「そういえば最近、自分の夢を見ていない」というのがあるが、

それは危険な兆候だ。

 

敦子がパプリカに「どうして私の言う事を聞かないの!」という場面があるけど、

顕在意識が無意識を支配できるなどと思ってはならない。

理性が衝動を、知性が本能を、ペルソナがシャドーを支配できるなどと、思ってはならない。

 

エゴの自分が、なんでも思いどおりにしようと頑張りはじめるのは危険な兆候だ。

 

それだとどーやってもうまくいかない。

 

夢が、内省が、無意識との調和が、

自分という楽器の調律が不全なまま、

どんだけ頑張ってみても良い音楽にならないのと一緒。

 

何事もうまくいかなくなったら、まず何よりもセルフメンテを、チューニングをするべきなのだ。

 

変わるべきはいつでも、外ではなく、内にある。

 

夢探偵は素晴らしいけど、パプリカを探さなくても、自分がガイドに成ることもできる。

 

いつでも、今でも、そうしようと思えば、始められる。

 

音楽のように、無常に響き合ってただうつくしく。

そんな風に生きられたらいい。

 

 

 

 

本当に惜し過ぎる人を亡くした。言葉もない。

 

なんかサントラを買うという行動様式もすっかり廃れたけど、これは黄金時代の逸品だと思う。

 

丸尾末広

 

少女椿


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パプリカの源流がここにあるよなあ。今見ても色々ぶっとんでる。惹きこまれる。

というか今では色々無理だなこれww映倫なにそれおいしいのwww

 


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まぼろし博覧会、まじカオス。

色褪せてくに任せてるし、館長のセーラちゃんがだいぶ高齢なので、行くならはよ行かんと。

 

昔好きだった短編漫画を思い出した。

街にやってくるサーカス、というのは物語の恰好の舞台だよな。

広場にできる巨大な天幕も、旅芸人という特殊なコミュニティも、スリルに満ち溢れたショーも、檻に入った猛獣も、

興行が終われば街から去ってしまう寂寥も、なにもかも。

そこに何を紛れこませても納得してしまうだろうほど、すべてが非日常だ。

 

 

人格のバックボーンに刷り込まれた漫画。

紛失してるから、また買ってしまおうか・・・。

 

 

百鬼夜行抄の主人公は、旧家の生まれで女装に女名で育てられた設定。律くん。

 

 

意識のネットワークについての過去記事。

inspiration.hateblo.jp

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特別お題「わたしの推し