ものがたりを解釈する

アニメ、漫画、小説、神話、あらゆるものが語りかけてくること。最も深遠な、でも誰にでも開かれている秘密に、解釈というメソッドで触れていく。

オッドタクシーを解釈する。水底はすぐそこ純文学。

オッドタクシー(1) (ビッグコミックス)

 

 

今期はオッドタクシーもすごく良かった。

これアニメオリジナルだったのか~。

ネタバレなしのリアルタイム視聴できたのは最高だったな。

 

人間模様とミステリーを楽しみつつ、

終ってみれば、事件の真相がどうというよりは、

 

時事ネタというか、日本の首都の、

今この時代の空気を描いてるってことが一番よく出来てたと思う。

これ10年後とかに見たらタイムカプセルのように懐かしさが甦りそうだ。 

 

地下アイドル、半グレ、ユーチューバー、ガチャゲー廃人、ラッパー、

SNSで美人局、売れないお笑い芸人とラジオリスナー、

大御所芸能人とヤクザの癒着、奨学金を返せない貧困からの転落…。

 

キャラのもってる背景のどれもが、イマドキで身近でリアルな闇だった。

 

どのキャラも社会の裏側に片足を突っ込んでいて。

一見して善良で普通に暮らしてるようでも、

その暮らしは底流に寄り添っててカーブを曲がれば暗渠に、暗い水底に転落するのはすぐってことなのがひしひし伝わったわ・・・。

 

そんななかでもMVPは、ソシャゲのガチャに給料も人生も全ツッパした青年、1話まるまる一人語りで魅せたCV斉藤壮馬にあげたい。

1話20分をずーっと一人で喋る、一人のキャラの内面の推移を突き詰めて見せるって面白かったな〜。

よくある小学生の収集癖、ある段階をうまく越えられなくて拗らせて、視野狭窄に病んで他害へ至る男の内面の描写。

兄のパソコンをこっそり使ってネットリテラシーなくて騙されたり、スマホゲーのデータが消えて落胆するとかあるあるで、堕ちていく気持ちがわからないでもなくて、実に陥りがちな現代の落とし穴って感じがした。こっわ。秀逸。

 

心を船や花に例えたり、どことなく純文学的な趣きがあったのは、太宰治の「駆け込み訴え」を思い出したのかな。一人語り文学の傑作。


4話「田中革命」だけでも短編として見る価値あるわ。

どこにでもいる陰鬱で浅慮な青年が、ある偶然から拳銃という超越的な暴力を手に入れてしまったら、どう壊れるのか…?っていう。

 

そういう生活が乱れた人、心が荒んだ人っていうのは、それが外見に表れて見てわかる感じになってくもので、

それをそのまま描き起こすと、闇金ウシジマくんのようなうらぶれてこきたない絵面(褒めてる)になっただろうところ、

人間を動物にする、擬獣化するというテクニックで、とてもユーモラスでかわいくて見やすかった。

 

ビースターズとか、最近ケモノが流行りだが、

オッドタクシーのはまた一味違って面白い擬獣化の設定だった。

 

以下ネタバレありになってくので、

未見の人はぜひネタバレ無しでオッドタクシーは見るべし!

YouTubeのオーディオドラマも次回予告もオリジナルならではの凝りようなので併せて聞くべし!

 


www.youtube.com

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オッドタクシーの動物達は、主人公オドカワの一人称視点によるものだ。

彼には、人間が動物に見える。

事故のショックで発現した、ある種の共感覚みたいなもので、

仮面で顔を隠してもシルエットだけでも、人を同定できるちょっとした特殊能力でもある。

漫画の表紙もそこを意識して顔を隠す仕掛けになってるけど。

オドカワの認識力はスーパーレコグナイザー、特殊捜査官になれるような才能に近い。

人の脳には、同族や表情を認識するために特に発達してる界隈があるという興味が尽きない話題なのだが。

 

スーパーレコグナイザー - Wikipedia

 

といってオドカワの職は一介の個人タクシー運転手だ。

タクシー運転手というのも興味深い職ではある。

一日中街を走って街の様子を肌で知り、色んな噂を耳にする。

ジャーナリストは現地の活きた情報をまずタクシーから得るとか言うね。

米原万里のエッセイにそんなことが書いてあったっけ。

終電過ぎて、夜の眠った街を走るのもタクシー。

昼間はちょっと偉い人や人目を忍ぶ人を乗せて、彼らの会話を漏れ聞いてもいる。

小さな個室、車の中ってのは流れる景色や振動が脳に適度な刺激を与える。アイデアが出やすい移動会議室であり、意外に重要なことが話されていたりするものだ。

 

タクシーは様々な人間模様とすれ違う、街を巡るオムニバスの舞台装置にぴったりだった。

 

 

 

オドカワの目に映る動物は、その人間の特徴の強調でもある。

警官兄弟は犬のお巡りさんで、その見た目はほぼ同じだ。メガネくらいの差異しかない。

 

兄弟は同じ動物として認識される、というのが伏線だとしたら、

地下アイドルの黒猫娘二人は、ひょっとしたら異母姉妹かもしれなくて。

 

それがあの顛末だとは思いたくないのだが。

 

そうとは知らず殺して、成り代わるっていう・・・。

 

どうなんだろうね?

この物語も随所で対比がよくできている。

奨学金の返済が苦しくて、職場の薬品を横流しするという犯罪に手を染めてたアルパカのナースが、半グレと縁を切れた代わりに、

シリアルサイコキラーが素顔をあらわすという最終回。

 

善いことと悪いことの裏表、禍福が糾える縄の如く描かれる。

 

水面に何かが落ちるという図像を重ねた演出は良かったなー。

車、札束、指輪、スマホ、唐揚げ、入浴剤、死体、…、

それらがドボンと落ちていった水中は、もうひとつの世界、裏社会や心の闇、無意識領域の暗喩だ。

 

宝クジが当たった幸運と、その金を半グレに狙われて拉致される不運。

SNSでバズった幸運と、調子こいてユーチューバーになって土下座配信がデジタルタトゥーになる不運。

マッチングアプリで美少女とデートできる幸運と、それが美人局で借金を負う不運。

ガチャで激レアが出る幸運と、直後にスマホが水没する不運。

芸能人の娘に生まれアイドルデビューできる幸運と、引き替えの不運…。

 

いや待て、禍福というか、これ上げて落とすのが基本の手法なのか。

幸運がフラグで、その後ロクでもない目に遭うやつばっかりじゃねーか。

 

人が動物に見える病、トラウマが寛解したハッピーエンドかと思ったら、

背後の殺人鬼の顔が認識できなくなっててバッドエンドかもしれない、というのもそうか。

 

ええ〜。じゃあ、

闇から這い上がれたのはアルパカナースだけなの…?

あとはみんな暗渠へドボンなのか?

小料理屋の女将カンガルーとかラジオリスナーのキリン青年とか、

安全地帯から野次馬してたキャラが最後唐突に不運に巻き込まれるとかも、なんとも皮肉だしな。

 

動物のかわいさでマイルドにしても、隠しきれない理不尽な後味w

 

でもなんかやっぱり文学感あるっていうか、伊坂幸太郎の読み心地っていう感想を見かけたけど同意。

アウトローがちょっと奇妙でありつつもロクでもない目に遭って野垂れ死ぬ話なのに、妙に軽快で小気味いいというか。

 

人間のどうしようもない愚かしさを見つめる作者の視点が優しいんだろうか。

わからないでもない。

自分もそういう番組見るの好きだもの。丸ゴンの裏社会ジャーニーとかねほりんぱほりんとか。

あれ見てる時の気持ちはなんだろうな。

自分より劣った人がいるのを見て安堵するゲスな気持ち、

人の醜さ、剥き出しの欲をぶつけあう環境にも共感を覚える自分への驚き、

そんなとこで生き抜く人達の生命力への感動、

社会の裏側や異文化に触れて世界観が広がる快、

 

衣食住それなりの生活を手放したいわけじゃないけど、

非常時や危険に相対するとき、死が近いほどに生の実感があると心は知っているわけで。

 

しかしそれで代償行為に物語を読み漁ってるなら、女将やキリンと一緒ってことか・・・。

対岸の火事、高みの見物、自分は安全、観客気分でナメくさってたら、その心根を見透かすように災禍は訪れる。

あれは、

「視聴者や消費者なんて一方的な立場は幻想で、お前らもいつでも当事者なんだぞ。」

と釘を刺されたんだろうね。

現代日本アンダーグラウンドを描くだけに、どの不運も身近に有り得るし・・・。

作者ものすげえ皮肉効かしてくるじゃん・・・。ブッ刺してくるじゃん・・・。

 

ど、どうしろと…?

 

チートと化していたアルパカナースに倣って、カポエイラでも習うか?

 

高度情報化社会だからこそ、

最後に頼れるのは己の肉体感覚である、というシンプルな解だろうか。

 

それはあるかもなー。

都会が舞台で、みんなSNSや情報操作で頭ばっかり使ってた。

 

キャラクターの掛け合いからするに、作者は感情の機微を言語化するのにものすごく長けた人だ。

 

世界を言語で把握するのは快だけど、その複雑さは負荷でもある。

選択肢が浮かび過ぎて、結局何も選べなくなる不自由さに苦しむのが思考タイプだ。

 

その反動で、身体でシンプルに世界と付き合うことに憧れと大きなパワーを見出したりするのかもなあ。

「私バカだから、考えるより行動します。突撃!」っていう本能タイプの直感と突貫力こそが事態を動かし、運も向いてくる。

…って言い方をすると、白アルパカナースと黒猫アイドルの白黒両ヒロインが当てはまるなこれ。計算ずくかよ。こっわ。

宮崎に大分、九州出身女子ってそんなイメージか・・・?

縄文の血統、隼人の気質だろうか。

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がばい極端か薩摩隼人ん例、脳筋戦闘民族。隼人 - Wikipedia

ゾンサガといい、これ九州女子きよっちゃなか、どやんす。

 

 

 

いやまあ、たしかに。

 

SNS、ニュース、噂、権謀術数、思い込み、人からどう思われるか。

氾濫する情報を受け取り過ぎて、思考の袋小路に陥ったら。

比喩でなく、走って逃げたらいいのだ。

できれば裸足で、砂や草の上を。

右に左に足を動かすうち、骨盤や腰椎の捻れや歪みがとれてくるだろう。

思考が拗れてるときは身体も拗れてる。

そんなときは身体から整えるほうが本質的かつ容易だった。

無心でただまっすぐ立つことができれば、どうすべきかは自ずと解る。そのとおりに体から動いていく。

それが頭だけに偏らないほんものの智慧、天心、インスピレーションというものだ。

それが最適で至高。ヒトの野生の到達だ。

 

っていうか作者作者っていうけどこの物語書いたの誰だ?

此元和津也、漫画家、セトウツミ。あ~、読んだことある。あれか。

 

今後も注目株だな!

 

オッドタクシー、テクニカルでアイロニカルで可愛くて、面白かった。

 

 

 

 

 

 

オッドタクシー、コミカライズの絵もうまいが、

半グレヤマアラシのラップパートを考えるとアニメよな。

ラップといえば斎藤壮馬もだけど、ヒプマイ声優多かった気がしないでもない。

速水奨とかあんなチョイ役で使わんだろ普通・・・、

お笑い芸人の起用も多かったし、声優ネタでもひと盛り上がりできそうな。

 

漫画試し読みは各種サイトにある。

オッドタクシー - pixivコミック

 


www.youtube.com

 

gishiria.hatenablog.com

すごくいい記事があったので。

音楽に詳しい、音楽を語れるって憧れるな~。

 

 

 

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裏社会ジャーニー、ラッパーも半グレも闇金も取材回ある。

今ラップの文化土壌が肥沃だから、そのリライトのヒプマイも上り調子なんだろな。

丸ゴンは7種体癖っぽい。


www.youtube.com

フリースタイルダンジョンのテーマ、my推しのSKY-HI。


www.youtube.com

 

 

 

ビースターズ完結よかおめ。この擬獣化は人の悩みを可視化するための装置だったな。

ウジウジ系主人公は好きになれないが、人間観察は女性的な感性で優れていたと思う。

 

 

 いうて伊坂幸太郎そこまで読んだことないけど。

魔王コミカライズ当時、サンデー買ってたなあ~。

あっガソリン生活も伊坂幸太郎か。これは車が主人公で、同車種乗ってるから好き。

 

 

米原万里のエッセイはどのエピソードがどの本だったやら・・・。

 

 

 

 

地下アイドルはNHKねほりんぱほりんでも何度かインタビューが。

公式書き起こしがある。

ドルオタやマッチングアプリ、宝クジ高額当選者の回もあったっけな。

知っちゃダメな話の闇深をモグラとブタのかわいい人形劇でマイルドにしてるのはオッドタクシーと同手法だし、これ元ネタだったりしそう。

www.nhk.or.jp

 

 

 

しかし、やっぱりラストのご想像にお任せしますは気になるな…。

殺意の振り切れたサイコキラーとはいえ、

普通に考えて体格差もあり修羅場慣れもあるオドカワを一撃必殺とはいかないのではないか?

キツネマネージャーに首締められたこともあるし、黒猫アイドル殺人犯が捕まってないのも推理してるし、まだ色々警戒してるよね?

初撃で即死を免れてクラクション思いきり鳴らせば多分、なんとか…。なんとか…。

頑張れオドカワ頑張れ。CV花江夏樹の主人公補正を信じろ。

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いや、9Sとかカネキとかイナホとか有馬とか、割と不遇役とか泣き演技求められ系声優だった気もするな、炭治郎も実はかわいそ成分多めだし・・・。

ぬあーバッドエンドやだー。警官弟助けて~。

 

 

 

今週のお題「一気読みした漫画」オッドタクシーは一気間違いなし。