ものがたりを解釈する

アニメ、漫画、小説、神話、あらゆるものが語りかけてくること。最も深遠な、でも誰にでも開かれている秘密に、解釈というメソッドで触れていく。

魔女の宅急便を解釈する1 女性の一生を描く。

魔女の宅急便 サントラ音楽集

金曜ロードショー魔女宅ゥー!

新型コロナ報道でささくれた心が癒されますな。

 

 魔女宅は何度観てもイイ。最高だ。ジジが本当にかわいい。

子猫らしいかわいさ描写はアニメ界不動のNo. 1と確信する。

 

特に解釈するような小難しいことはない、ただ素直に楽しめばいい作品なんだけど。

 

が、まあ、

ここまで解釈を続けてきた材料をもって見直せば、それはそれで、色々符合することがあって面白いってことはある。

 

 

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宮崎駿の世界観は、初期作から一貫してる、と思う。

これはいったい本人はどれほど自覚して設定を練っているものなのか?

それとも精魂込めた作品はおのずと自分自身の鏡となるということか?

 

 

さて、

まず赤毛のアンでいうところの、ニンジンのような色の髪、オレンジ色の髪、

赤毛=魔女、赤い服や飾り=魔女のアイテム、という前提で魔女宅を観ると、

驚くべきことに、

登場する女性たちが脇役や名もない端役まで、赤毛や赤い服、赤い石のイヤリングをしていることに気が付くだろう。

 

キキの母コキリ、コキリの客の老婦人ドーラさん、占いが得意な先輩魔女、オソノさん、おしゃぶりがないと泣く赤ちゃんのお母さん、最初の依頼人マキ、ケットちゃんのお母さん、バーサ、パイが嫌いな孫娘、ウルスラ、etc・・・

 

家で子育て中の母親が、真っ赤な石の耳飾りをしているというのも多少違和感があるが、あえて描きこまれているとしか思えないし、

 

パン屋のお客さんとか、ほんとに通りすがりの女性までちょくちょく魔女カラーが配色されている。

 

逆に、赤髪でない女性は、キキと、ニシンのパイが得意料理の奥様くらいだ。

キキは黒髪に赤いリボンをしているが、奥様は白髪で装飾も緑系だ。

 

さて、ここからどういう意味を読み取ったらいいだろうか?

 

黒髪のキキは、魔女の才能がないとか?

 

ま、色々解釈はあるかもしれないが、

 

自分はこれは女性の一生、ライフステージを表現してるんじゃないかと思った。

物語全体が、ひとつの象徴的な女性像、聖母と言ってもいいかもしれない。

 

ヒント1は、赤毛の女性を年代別に並べる。

 

キキが13歳の少女。

パイが嫌いでいじわるな感じの孫娘は、ほぼ同年代でライバルのポジション。

先輩魔女はもうじき修行が終わるところ。14歳

ウルスラが16歳くらい、絵描きで手先も器用だ。

マキは未婚の働く女性、デザイナーだという。20代前半。

オソノさんは妊婦、出産まで。20代前半

おしゃぶりがないと泣く赤ちゃんの母、20代中盤

3,4歳くらい?のケット少年を育てる母、20代後半

13歳の娘をもつ母のコキリ、魔女の薬を売っている、30代

中年女性のバーサ、お屋敷の女中、60代

そして白髪の奥様、70代

コキリの客の老婆、ドーラさん(多分彼女もマ・ドーラで母という意味かと)80~90代

 

年代は適当に推測したが、女性のライフステージを網羅する意図がありそうなのは察して頂けると思う。

 

キキ以下の年齢の女性だが、前作トトロでメイとサツキが8歳と4歳だったかな。

サツキとメイも、原案では一人の女の子だったのを姉妹にわけたという裏話がある。

となりのトトロ [DVD]

この女の子が、サツキとメイになる元のキャラらしい。

一人の女性の様々な側面を、何人ものキャラにわけて描く、というアイデアの元はそこにあったのかもね。

ちなみに次作のラピュタのドーラは30代の息子の母なので、コキリより年嵩でバーサより若い。50代かな。

 

もしエンディングで生まれているオソノさんの赤ちゃんが女の子だったら、

赤ちゃんから老婆まで、全年代の女性コンプリートだ。

 

ヒント2は、よく言われてる噂話だけど、キキに初潮がきてる。

パン屋の二階に間借りして最初の朝、不調そうな表情で起きてトイレに行って、パン屋の主人、男性を避ける。

というのは確かにそんな感じの描写だ。

まずアニメの登場人物は意味なくトイレに行かないしなw普通は捨象することだw

キキがトイレで憂鬱そうにしてるイラスト案もある。

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まあ、少女の初潮だけ描きたがったら宮崎駿はただの変態おじさんなわけだが、

女性の一生を描こうと思ったら、そこは避けて通るとウソになる重要なファクターなので致し方なし。無罪判決。

 

人間は、幼児のうちは大して男女の区別が重要ではなく、

第二次成長期が来て、初潮や精通があって、生殖、繁殖可能な個体としての成熟を迎える。

 

それはある意味で、生物学的な意味で、

大人になった、一人立ちの時期を迎えたってことではあるな。

繁殖したら子供ができて親になるもんな~。人間は子育てする生物だ、子育てするなら親になっていくと。そういうもんだ。

 

宮崎駿の描く女性性の力、空を飛ぶ力、受け入れる力、異種と心を通わせ交わる力、魂鎮めの力、子を産み育て、あるいは子を支配する力、

そういった魔女の力というのは、年代やライフステージとも無関係ではないと思う。

 

ニシンのパイの奥様が白髪なのは、髪から色が抜けているのは、体力や気力のように、魔力も加齢によって衰えているってことではないだろうか。

 

以降の作品で、ヒイ様や湯バーバ、サリマンなど、白髪の巫女や魔女も登場するけど

いずれも、力が衰えていると見える描写があった。

 

もし奥様が緑でなく、

赤い石や赤い服を身に着けていたなら、

魔女の力をもっていたなら、得意料理を作れないということはなかったんじゃないかと思う。

電気オーブンは故障しないか、薪オーブンにすぐ切り替えたか、なんとかできたはずだ。

キキとバーサがいたから、薪オーブンを使おうという気になって、料理が完成したけども。

あと、奥様とドーラさんは役目や仕事がないというか、隠居した有閑夫人な感じだ。

 

老婆のドーラさんは赤を身につけることで、衰えた力を補っているのかな。

これはサリマンもそうだった。

 

まあ、奥様は料理は作れなかったけど、オソノさんやウルスラのように、

キキという異邦人、魔女をすごく親密に受け入れてくれてはいる。

そこは魔女的というか、

魔女宅では、孫娘以外のすべての赤毛女性と奥様でキキを受け入れ、自立を支援してるんだよな。

 

キキが初めて海に浮かぶ街に訪れたとき、一騒動起こしてから箒を降りて挨拶するけど、街の人はみんな生温かくスルーという対応だった。

あれが通常の反応というものではなかろうか。13歳の女の子にいきなり話しかけられて、「じゃあウチにどうぞ」とはwwなかなか言わんよww

世の中そりゃ優しくて懐深い人もいるけど、未成年者略取とか世知辛い罪状もあるわけで。

 

オソノさんや奥様の親切さ、親身さは、初対面の他人ではほとんど有り得ない、身内への愛情的だ。

 

物語全体が、赤を身に付けた女性たちと奥様のみんなが入れ代わり立ち代わりして、

娘の自立を支援する母的、キキの自立を支援する女神的、とそういう構造になってるように思う。

一人の母親像を、多数のキャラクターに分割して描いてる、

それを統合してみると個人の容量を越えてるので女神と言葉にしてみたけど、

まあそんな感じだ。象徴的母像、聖母像というか。

初潮がきて、子供から女性になった娘に、

仕事を斡旋して、失敗も見守って、報酬をくれて、やっていけるようになるまで一緒にいると。

 

つまりこれは母性の善性の物語ってことなのかな。

 

そういえば、

グランドマザー効果、おばあさん仮説っていうのがある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E3%81%B0%E3%81%82%E3%81%95%E3%82%93%E4%BB%AE%E8%AA%AC

 

女性が生殖適齢期過ぎて何十年も生きることが、人間の生存戦略にとってどう有利だったかっていう仮説だ。

たいていの動物は、寿命イコール生殖適齢期だ。


それは母が娘の子育てを支援すること、

経験者のフォローがあることでより子育てが円滑にできるっていうか。
人間の子供はとにかく未成熟で、手がかかるからな~。

たいていの動物の赤ちゃんは、一か月もすれば自力で歩くくらいには育つものだ。

 

グランドマザー戦略は人間だけに限ったものでもない。

シャチやゾウでも年嵩のメスが群れのリーダーだというし、

ダーウィンが来たで見たんだけど、相島っていう島の猫は、母娘が共同で子育てしていた。

https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/original.html?i=19373

娘が一人前になるまで、母が見守り、手助けする。

娘の子育ても初めてじゃわからないことだらけだし、体調だって万全とはいえないだろう。

人間は脳の発達や二足歩行、両手が使える進化と引き換えに、

胎児の頭が大きくなって母体の骨盤が小さくなって、ひどく難産な動物だ。

そんなとき経験豊富で頼れるグランドマザーがフォローしてくれたら、

母も子も生存率、精神安定度ともに向上するだろうねっていう話だ。

 

ヒトの難産化とグランドマザー効果には相関関係がありそうだなー。

 

母娘の関係性っていうのは、

母息子の関係とは違って、一体化しやすく、またそれが実利になるという側面があるなあ・・・。

 

母性のダークサイド、息子の自立を阻む母はその後の作品で登場する。

ドーラ、湯バーバ、サリマンなどだ。

 

で、そういえばこないだディズニーのシンデレラを解釈したんだけど、

母と娘の確執の物語はあっちのお家芸なんだよな~。

白雪姫、眠り姫、シンデレラ、みんな娘を排除しようとする継母の物語っつーか。

 

魔女宅、母が娘を育て、自立を支援する物語も、

その後の、母が息子を虜にして自立させない物語も、

 

ディズニーの文脈の補完や派生、アンチテーゼとして見ても面白いよね。

ディズニーを見て育った監督が、そこでやりつくされたこととは違う切り口で表現を始めると。

するとそれは時代の波に乗ってるってことになるのかもなあ。

アニメ史にも潮流があるようで面白い。

 

 https://nazology.net/archives/46406#midashi1

 

 

 

さて、次の記事は、キキがなぜ魔法を失ってしまうのか、

そこに至るまでに非常に丁寧な伏線の積み重ねがあるのを見ていきたい。

まじで天才のお仕事で感動することうけあい。

 

 

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