ものがたりを解釈する

アニメ、漫画、小説、神話、あらゆるものが語りかけてくること。最も深遠な、でも誰にでも開かれている秘密に、解釈というメソッドで触れていく。

チェンソーマンを解釈する。マザコンの最終回答(ファイナルアンサー)

チェンソーマン コミック 1-10巻セット

 

チェンソーマンが意外と読みごろの巻数で描ききってくれた。

飽きちゃう前に読み終われてとても満足なきもち。

 

チェンソーマンのなにが面白くて読んでたかっていうと、絵がオサレなのと、

あの週刊少年ジャンプがこのアングラ感のカタマリみたいな漫画を載せるんかいっていうところ。

おいおい週刊少年ジャンプでここまで描いていいのか?グロだよ?鬱だよ?

これ月刊とか増刊じゃなくて週刊のジャンプだよ?

小学生男子が学校で回し読みするに相応しい王道の明るさや熱血さ、崇高さが皆無だよ?

ダークでダーティで卑俗で、アフタヌーンとかIKKIとかのマイナー誌の読み心地でしかないよ。

っていう、自分のなかにあった少年ジャンプ像のボーダーラインがグラグラしてハラハラするのを楽しんでいたのだ。

 

ちょっとアレ過ぎて人に勧めるのはためらう漫画なんだけど、

解釈して面白そうではあるので、以下全ネタバレ有りで書いてく。

 

まずざっと粗筋。

悪魔とデビルハンターのいる世界で、主人公デンジはチェンソーの悪魔と契約し、人外の力を得る。

最底辺の暮らしをしていたところから、マキマという女性に拾われ公安組織で雇われることになる。

一話から一貫して主人公の動機はマキマへの思慕になる。

 

この作品における悪魔、というのは人間が恐怖する概念の実体化みたいなもので、人が恐れるもの、蛇・幽霊・ゾンビ、など分かり易いホラー映画の常連から、

銃の悪魔、爆弾の悪魔、台風の悪魔、未来の悪魔、宇宙の悪魔、天使の悪魔、など、

概念ならば何でもアリの様相を呈してくる。

だんだんどんな悪魔なのかピンと来なくなるが、

まあ世の中色んな恐怖症があるもので、その対象全部が悪魔になり得ると思えばいいんだろう。

序盤のザコ敵でトマトの悪魔とかいるからな。トマトを怖いと思ったことはないが、

例えばグモッた死体を見て潰れたトマトを連想したら、その後トマトを見る度に恐怖を想起してしまう、みたいなことはままあるときく。

未来の悪魔は予知の災厄、ラプラスの悪魔パンドラの箱みたいな、避けられない未来を知ってしまう恐怖のことで、

天使の悪魔、というのが意外というか言葉が矛盾してて面白いが、

羽の生えた美少年の外見で、触れた人の寿命を吸い取るという。

いわゆる死に際にお迎えにくる天使のイメージがあるけど、

死んだから天使が迎えに来るんじゃなくて、

天使が来るから死ぬのかも、殺されて連れていかれるのかも、

という逆説で恐怖が発生するってことかな。

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そう思うと、この見慣れた絵面もホラーになる認知の不思議。これを拉致現場とする解釈も成り立つのだ。

 

天使ネタは他にもでてくるし、その辺は設定が凝ってそう。

悪魔って基本は堕天使なわけで、天使と悪魔はそもそも表裏一体だ。

主人公の名前の中にも、テンシの音がある。

 

で、物語の序盤では倒すべき目標、お約束のボスキャラとして銃の悪魔という存在が提示される。

 

銃の悪魔の手がかりを探して悪魔を狩るうちに、主人公と同僚達が仲良くなっていく。

 

のだが。

 

そこらまではまぁ、邪道な味付けなりに、王道な展開だなーと、脳死で読めたのだが。

 

主人公と同僚達がケンカしたり折り合ったりして、パーティとしてまとまってくる、

共同体、疑似家族として成立したあたりから、一気に狂った展開に落としていく。

 

人類共通の敵と思われていた銃の悪魔は既に封印済で、

国家間で核の抑止力のように運用されていたことが明らかになる。

 

不法に銃が流通しているのは、銃の悪魔が契約をバラまいているせい、

と思わせておいて、実際は人間同士で銃の密売がされているだけ。

 

まあ、人間の悪意のほうが、悪魔よりエグいというやつだ。

 

脅威の敵を倒す、という少年誌的テーマの根幹が揺らいだところで、

ちょいちょい怪しい黒幕ムーブをかましていたマキマが正体を現してくる。

 

まあ、この辺まではまだね?

敵と思っていたものが、より大きな何かに利用されている木偶に過ぎなかった、くらいなら、

進撃の巨人とか、それなりにまだ既視感はある展開なわけだけども。

 

真のラスボスとして、支配の悪魔、という正体を出してきたマキマは、

主人公と契約しているチェンソーの悪魔を欲している。

主人公のメンタルを殺せば悪魔だけが残るだろうってことで、精神攻撃を仕掛けてくる。

具体的には、時間をかけて仲良くなっていった人達を、主人公から取り上げる。

恋仲になりそうだった娘を暗殺したり、

同僚達を主人公自身に殺させようと仕組む。

 

まあ、ここまでもまだ判る。

それで「俺はもう助からないから殺してくれ、お前は生きろ。」とか言い遺して死ぬパターンかなーと思ったら、

そこがもう全然だった。

主人公と同年代の同僚、ナルトとサスケみたいな仲間であり好敵手のキャラと死力を尽くして戦うのに、そこにあるべき心の交流が描かれない。

 

同僚はマキマに操られたまま、何も語らず、何も遺さずに死ぬ。

 

ので、主人公は殺し合いから何も得られず、とても絶望する。

 

呆然としたまま、マキマのところへ行く。

「マキマさんの犬になりたいです」と言う。

考えると辛いばかりだから、もう何も考えたくない。ただ命令されることに従っていたいと言う。

 

そんな主人公見たことねえなwww

そりゃ人間そういう本音もあるけども、ヒロインの前で強がりみゼロでぶっちゃける男の子があるかい。

 

「自立する」「自ら意思決定する」とか、そういう獲得すべき普遍のテーマをブン投げて、

支配者に隷属したいと自ら言い出すとか、一周回って新しいわー。

 

さて、しかしこの展開が無理なく成り立つために、いくつか仕込まれているネタがある。

 

支配の悪魔、格下と思うものを支配できる、という能力を持つ悪魔の正体を現したマキマの姿は、

腹から伸びた鎖で、支配する者を繋いでいる。

 

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対して主人公は、自分の腹から腸を引き出して首に巻き付けるとかいうイカレたファッションで戦う。ジャンプの主人公だぞおい。

 

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これ見たら、あー臍の緒が首に絡まっちゃうやつかー、と連想するよな。

 

つまり、マキマが象徴的に母で、主人公は胎児、という外見的特徴を付与されている。

 

主人公は最底辺の暮らしをしていたと言ったが、

その記憶に母親の面影はなく、父親を殺してしまったことを抑圧して忘れている。

初等教育もなく、父親の借金を返すとしてヤクザに搾取されているという、

全方位に積んでる真っ暗な人生だったところから、

 

マキマが新しい人生をくれた。衣食住、適性に応じた職、そして疑似家族、

人として必要とするものをみんな与えてくれた聖母だったわけだ。

 

子どもという生き物は無条件に母を愛し頼る。

が、互いに等身大の人間であるなら、時間が経つにつれ齟齬は生まれるものだ。利益が一致しなくなる。

そこで母から離れ自己を確立するルートでないとしたら、残された道は?

子が母を従える、母との一体化、という方向になる。

 

「今思えば、俺はな~んも自分で決めてこなかったな」と、反省からの自立ルートに入れる選択肢の場面もあったのだが、

「それが普通でしょ」とそれを肯定したキャラがいて、そこが同化エンドルートへの分岐だったと思う。

 

分離か、同化か。エヴァとかも胎内回帰とかそっちルートに行った物語だけど、

 

チェンソーマンは全く回りくどくなく、直喩で、あからさまにそれをやらかしおった。

 

食べた。マキマを。

ラストバトルの後、そのままだと復活してくるからっつって、

バラバラにしてタッパーで冷蔵庫に入れて、アパートの一室で毎日調理して食べた。

 

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「マキマさんってこんな味かあ・・・」って

 

ヤバイヤバイヤバイ。完全に猟奇犯罪者の絵面とセリフだって。

ありふれた生活感の中に食人描写をブチこんでくるな。レクターか座間かよ。

ジャンプの主人公だって言ってるだろ!?

 

ヤバすぎて大炎上するのではと心配になったが、そこは鬼滅ブームに隠れた感あるな。

いや最終話だからもうそこは炎上商法でも良かったのかもしれないが。

 

この漫画の世界観では、悪魔は死によって地獄と人界の間を転生し続けるものらしく、

次週ではマキマさんは幼女に転生して再び主人公のもとに現れ、共に暮らすよう託される。

 

世話してくれる年上の女性から、世話すべき年下の女性に変化する。

 

支配者を倒すと、支配を軸に関係性が反転するというアレだ。主従が逆転する。

今度は主人公が支配者であり庇護者になる。

幼女になったマキマに、今度は主人公が衣食住や安心を与える番になる。

 

生死は理であって善悪でなく、この関係性から次はなにを学べるかってことかな。

 

異常な展開が続いて、常に驚きを提供してくれた漫画だったけど、

主人公とマキマという視点からは割と妥当というか、物語としてまとまっていたと思う。前作ファイアパンチから随分成長してるな。

 

主人公の意識が非常に低いというか、未だ自我同一性拡散の段階というか、

食べたいヤリたいチヤホヤされたいという動物並みの率直さで、

他者に共感したり、本能と理性の間で葛藤するレベルにまで達してないっていうのも命題の設定として良かった。

胎児というか、幼児というか、それくらいの精神年齢と発達段階でこそ、母が好きだから食べてしまうっていうのが正解で有り得たというか。

オギャオギャの赤ちゃんだったら毎日お母さんの乳(血肉)を食べることに抵抗があるわけもないじゃない?

 

母性存在に対して、父性存在も割とちゃんと機能してたしな。

主人公たちを鍛える師であり、マキマを危険視するオッサンが人類勢代表として物語の土台を支えていた。

 

チェンソーマン、面白かった。

 

そういえば、なんでチェンソーの悪魔が、他の悪魔から狙われたり慕われたりする特別な能力を有してるのだろうか。

チェンソーは、まあ、十三日の金曜日の映画とかでズタズタに肉を千切る凶悪な凶器っていうイメージもなくはないけど、

そもそもは木を切る工具だ。適切に使用すれば便利な道具であり、恐怖の象徴ってことはないだろう。

 

そういえば、マキマというのは耳慣れない響きの名だが、マ木マ、で真ん中の木を切れば、ママになるな。

 

チェーンとソー、鎖と鋸、

最初はノコギリの切る機能で戦ってたけど、

途中から鎖を使ってスパイダーマンのようなアクションをしていた。

 

刃で断ち切ることと、鎖で繋ぎ合わせること。

対極の両義を持ち合わせることで、完全性が成立する。

それを一種の万能や超越と見做すのは、とても自分好みの考え方だ。

 

チェンソーマンに滅された悪魔は、

あの世とこの世を行ったり来たりの輪廻の輪から消失するという。

転生に、終わらない生の苦に飽いた悪魔は無を望むという。

それって解脱とか涅槃っていうやつのことかな。

 

そこでヒーローや神仏に願う他力本願でなく、

 

自らのなかにそこへ至る道があると知ることだ。

 

分離も同化も繰り返し現れる生々流転の相のひとつに過ぎない。

 

いずれ全てが尽き果てて至るどこかがあって、それが解れば、

時間と空間の隔たりも意味を失くし、いつでもどこにでもそれはあると解る。今、ここにもだ。

 

輪廻も、有限の世界の旅の全ても、唯再びそれを知るためにこそ在るのだ。

 

 

 

 

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今週のお題「鬼」